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三菱一号館美術館 公式ブログ 当館のイベントの様子や出来事をお知らせしていきます。

2019年1月21日

埋もれた巨匠を発掘!④:フアン・グリス(前編)

皆さま、お久しぶりです。
本ブログでは、「フィリップス・コレクション展」に関連した、「埋もれた巨匠を発掘!」シリーズをお届けしています。
ロジェ・ド・ラ・フレネ、ハインリヒ・カンペンドンク、アドルフ・モンティセリと3人の埋もれた巨匠をご紹介し、皆さまの投票によって、新たに発掘したい画家として、フアン・グリスとオスカー・ココシュカが選ばれました。
今回はフアン・グリス(1887-1927)をご紹介します。解説は本展担当の安井学芸員!

―フアン・グリスについて説明をお願いします。

グリスはキュビスムの画家です。日本で最も有名なキュビスムの画家と言えばフレネの説明(https://mimt.jp/blog/official/?p=2919)で出てきたピカソとブラックが双璧ですが、3番目に来るのはグリスなんですね。日本ではそれほど知名度はないかもしれませんが、彼は、ピカソのすぐ横でキュビスムの展開を目撃していました。

―グリスはこの度「埋もれた巨匠」に認定?されてしまいましたが、結構メジャーな画家だったんですね。なのに、「埋もれてしまった感」があるのはどうしてなんでしょう?

確かに。埋もれてしまった感じはありますね。この人は1927年には亡くなってしまったんです。短命だった。

―それは作品が少ないと言うことですか?

作品が少ないだけでなくキュビスムの評価が高まり皆が購入するようになったとき、彼は既に亡くなっていました。そういう意味では、とても不幸だったと思います。

―キュビスムの画家であるということは解りました。フアン・グリスの特徴があったら教えてください。

グリスは、ちょっと面白い画家なんです。ピカソやブラックは、自分たちの頭で思い描いた「キュビスム」を、作品を描くことでどんどん進めていくんです。いろんな視点を使って、あるモティーフを1つの画面で再構成していくやり方ですよね。
立方体、円柱、球と言う形を描いて。理論的に組み立てて行く前に、“絵”つまり作品として完成させます。当たり前と言えば、当たり前なんですが。

グリスは、そういうキュビスムの考え方を、論理立てて言葉にすることが出来た人だと思います。比較的早い時期に、感覚的な描き方とともに、理性的、知性的、科学的な分析が出来たといえるでしょう。そのような知性的な視点を持ちながら、色のカラフルな感じを、(装飾的という言い方をするんですけれども)重視することで、妙にバランスがとれている不思議な画家なんですね。
だから、フィリップスさんが初めてキュビスムの作品としてコレクションに迎えたのではないでしょうか。彼はキュビスムの最盛期の作品を、それほど好んでおらず、最初はコレクションに入れてなかった。ピカソは青の時代は購入しているけれども、青の時代はキュビスムのよりも前の時代ですし。

ところで、今回展示されているこの作品、《新聞のある風景》は1916年に描かれました。
絵の中に新聞が書かれています。

フアン・グリス 《新聞のある静物》 1916年 油彩/カンヴァス 73.7 x 60.3 cm

これより前の時期には、実際の新聞を作品に貼っているものが多い。「パピエ・コレ」という手法です。1912年から10年あまりの期間は、ピカソもトライアルで使っていた技法です。グリスもこの方法をよく使っていました。
キュビスムは最初、鏡や新聞など本物をコラージュしていました。その後、実物ではなくそのモティーフを描くという方法に進んでいきます。《新聞のある風景》は、初期の分析的なキュビスムに使われていた手法ではなく、新聞を書き込んでいます。
こんな表現からもキュビスムの変遷が読み取れます。グリスは、キュビスムの過程を体現する画家だったのです。

ところで話は変わりますが、ピカソやブラックなど、キュビスムの良い作品が揃っていると思うのはスイスのバーゼル美術館ですね。あくまで、僕がいろいろな美術館を見てきた中での個人的な意見ですが。生まれて初めて、キュビスムってすごいんだ!とバーゼル美術館のコレクションを見て思いました。

皆さんも訪れる機会があれば、ぜひご覧になってください。意外かもしれませんが、アメリカのコレクションはキュビスムの良い作品が入っていることはあっても、まとまってずらり、ということはありません。

―アメリカにまとまったキュビスムのコレクションがないのには、何か理由があるのですか?

キュビスムの活動は後半が第1次世界大戦と重なってしまい、美術市場がうまく機能していなかったためです。
フィリップスさんはキュビスムのことをあまり評価できなかったと言っていますけれど、違う見方をすると、良いものを見る機会が少なかったことも低い評価につながっているんじゃないかな、とも思いますね。タイミングが悪かったというか、時代的に不幸だったといえるかもしれない。

―なるほど。最初においしくないものを食べて、食わず嫌いになるのと似ている感じがしますね。最初に良いものに出わなかったので、印象がよくないというか。
続いて、今回展示されている作品《新聞のある風景》についても教えてください!


 

次回は実際の作品の見どころを解説していきますので、どうぞお楽しみに!

「フィリップス・コレクション展」
◆会期:2018年10月17日(水)〜2019年2月11日(月・祝)

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埋もれた巨匠を発掘!④:フアン・グリス(前編)

皆さま、お久しぶりです。
本ブログでは、「フィリップス・コレクション展」に関連した、「埋もれた巨匠を発掘!」シリーズをお届けしています。
ロジェ・ド・ラ・フレネ、ハインリヒ・カンペンドンク、アドルフ・モンティセリと3人の埋もれた巨匠をご紹介し、皆さまの投票によって、新たに発掘したい画家として、フアン・グリスとオスカー・ココシュカが選ばれました。
今回はフアン・グリス(1887-1927)をご紹介します。解説は本展担当の安井学芸員!

―フアン・グリスについて説明をお願いします。

グリスはキュビスムの画家です。日本で最も有名なキュビスムの画家と言えばフレネの説明(https://mimt.jp/blog/official/?p=2919)で出てきたピカソとブラックが双璧ですが、3番目に来るのはグリスなんですね。日本ではそれほど知名度はないかもしれませんが、彼は、ピカソのすぐ横でキュビスムの展開を目撃していました。

―グリスはこの度「埋もれた巨匠」に認定?されてしまいましたが、結構メジャーな画家だったんですね。なのに、「埋もれてしまった感」があるのはどうしてなんでしょう?

確かに。埋もれてしまった感じはありますね。この人は1927年には亡くなってしまったんです。短命だった。

―それは作品が少ないと言うことですか?

作品が少ないだけでなくキュビスムの評価が高まり皆が購入するようになったとき、彼は既に亡くなっていました。そういう意味では、とても不幸だったと思います。

―キュビスムの画家であるということは解りました。フアン・グリスの特徴があったら教えてください。

グリスは、ちょっと面白い画家なんです。ピカソやブラックは、自分たちの頭で思い描いた「キュビスム」を、作品を描くことでどんどん進めていくんです。いろんな視点を使って、あるモティーフを1つの画面で再構成していくやり方ですよね。
立方体、円柱、球と言う形を描いて。理論的に組み立てて行く前に、“絵”つまり作品として完成させます。当たり前と言えば、当たり前なんですが。

グリスは、そういうキュビスムの考え方を、論理立てて言葉にすることが出来た人だと思います。比較的早い時期に、感覚的な描き方とともに、理性的、知性的、科学的な分析が出来たといえるでしょう。そのような知性的な視点を持ちながら、色のカラフルな感じを、(装飾的という言い方をするんですけれども)重視することで、妙にバランスがとれている不思議な画家なんですね。
だから、フィリップスさんが初めてキュビスムの作品としてコレクションに迎えたのではないでしょうか。彼はキュビスムの最盛期の作品を、それほど好んでおらず、最初はコレクションに入れてなかった。ピカソは青の時代は購入しているけれども、青の時代はキュビスムのよりも前の時代ですし。

ところで、今回展示されているこの作品、《新聞のある風景》は1916年に描かれました。
絵の中に新聞が書かれています。

フアン・グリス 《新聞のある静物》 1916年 油彩/カンヴァス 73.7 x 60.3 cm

これより前の時期には、実際の新聞を作品に貼っているものが多い。「パピエ・コレ」という手法です。1912年から10年あまりの期間は、ピカソもトライアルで使っていた技法です。グリスもこの方法をよく使っていました。
キュビスムは最初、鏡や新聞など本物をコラージュしていました。その後、実物ではなくそのモティーフを描くという方法に進んでいきます。《新聞のある風景》は、初期の分析的なキュビスムに使われていた手法ではなく、新聞を書き込んでいます。
こんな表現からもキュビスムの変遷が読み取れます。グリスは、キュビスムの過程を体現する画家だったのです。

ところで話は変わりますが、ピカソやブラックなど、キュビスムの良い作品が揃っていると思うのはスイスのバーゼル美術館ですね。あくまで、僕がいろいろな美術館を見てきた中での個人的な意見ですが。生まれて初めて、キュビスムってすごいんだ!とバーゼル美術館のコレクションを見て思いました。

皆さんも訪れる機会があれば、ぜひご覧になってください。意外かもしれませんが、アメリカのコレクションはキュビスムの良い作品が入っていることはあっても、まとまってずらり、ということはありません。

―アメリカにまとまったキュビスムのコレクションがないのには、何か理由があるのですか?

キュビスムの活動は後半が第1次世界大戦と重なってしまい、美術市場がうまく機能していなかったためです。
フィリップスさんはキュビスムのことをあまり評価できなかったと言っていますけれど、違う見方をすると、良いものを見る機会が少なかったことも低い評価につながっているんじゃないかな、とも思いますね。タイミングが悪かったというか、時代的に不幸だったといえるかもしれない。

―なるほど。最初においしくないものを食べて、食わず嫌いになるのと似ている感じがしますね。最初に良いものに出わなかったので、印象がよくないというか。
続いて、今回展示されている作品《新聞のある風景》についても教えてください!


 

次回は実際の作品の見どころを解説していきますので、どうぞお楽しみに!

「フィリップス・コレクション展」
◆会期:2018年10月17日(水)〜2019年2月11日(月・祝)

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