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2021年5月26日

松岡正剛さんエッセイ「新しい私に出会うーたくさんの私へ」

新しい私 書店」のオープン4周年を記念して発行した「新しい私 書店」通信に掲載されているエッセイを、ブログでもご紹介します。今回は、編集工学研究所所長の松岡正剛さんに執筆いただきました。


ぼくの仕事は編集である。本や雑誌や映画を編集するだけでなく、歴史や生活や思想や技能を編集する。そういうふうに編集を広げていくことを「編集工学する」と名付けた。たいへんおもしろい。編集工学を知ってもらい、学んでもらうためにイシス編集学校というネット上の学校をつくった。4万人ほどが入門して、そこから800人ほどの師範代が誕生した。そのうちの150人くらいが学校の先生をしてくれている。

この学校で最初にセットしてもらうことがある。あえて「たくさんの私」になって挑んでほしいということだ。

われわれには一個の体をもつ自分というものがあるけれど、そこには血液型の自己、免疫的な自己、遺伝的な自己がまじっている。実は厖大な数の細菌やウイルスもまじっている。またわれわれには国籍や母校とつながる自己もあるし、「さみしい自分」や「元気が出る自分」もいる。仕事をする自分もいるが、遊ぶ自分もいる。アタマのなかには記憶的な自己があり、「思い出におしつぶされている自分」や「トラウマをもつ自分」もいる。

われわれには、こういう「たくさんの私」を隠しすぎる傾向がある。そのうえでアイデンティティを確立しようとするだが、ここにムリがある。小さくなりすぎたり、自分に屈することがすぐおこる。むしろいくつもの編集的自己を発揮したほうがいい。その「たくさんの私」を活して新たな認識や冒険に向かうほうがいい。

読書は「本を読む私」をつくる。本はいろいろの著者やメッセージをもっているから、「本を読む私」は「たくさんの私」を実感できる。路線を乗り換え、いつもの服装を着替え、ふだん手放せなかったカバンを変えることができる。本を通して「たくさんの私」を発見し、自分の中の他者をもっとおもしろがってほしい。


<プロフィール>

松岡正剛
編集工学研究所所長
角川武蔵野ミュージアム館長

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松岡正剛さんエッセイ「新しい私に出会うーたくさんの私へ」

新しい私 書店」のオープン4周年を記念して発行した「新しい私 書店」通信に掲載されているエッセイを、ブログでもご紹介します。今回は、編集工学研究所所長の松岡正剛さんに執筆いただきました。


ぼくの仕事は編集である。本や雑誌や映画を編集するだけでなく、歴史や生活や思想や技能を編集する。そういうふうに編集を広げていくことを「編集工学する」と名付けた。たいへんおもしろい。編集工学を知ってもらい、学んでもらうためにイシス編集学校というネット上の学校をつくった。4万人ほどが入門して、そこから800人ほどの師範代が誕生した。そのうちの150人くらいが学校の先生をしてくれている。

この学校で最初にセットしてもらうことがある。あえて「たくさんの私」になって挑んでほしいということだ。

われわれには一個の体をもつ自分というものがあるけれど、そこには血液型の自己、免疫的な自己、遺伝的な自己がまじっている。実は厖大な数の細菌やウイルスもまじっている。またわれわれには国籍や母校とつながる自己もあるし、「さみしい自分」や「元気が出る自分」もいる。仕事をする自分もいるが、遊ぶ自分もいる。アタマのなかには記憶的な自己があり、「思い出におしつぶされている自分」や「トラウマをもつ自分」もいる。

われわれには、こういう「たくさんの私」を隠しすぎる傾向がある。そのうえでアイデンティティを確立しようとするだが、ここにムリがある。小さくなりすぎたり、自分に屈することがすぐおこる。むしろいくつもの編集的自己を発揮したほうがいい。その「たくさんの私」を活して新たな認識や冒険に向かうほうがいい。

読書は「本を読む私」をつくる。本はいろいろの著者やメッセージをもっているから、「本を読む私」は「たくさんの私」を実感できる。路線を乗り換え、いつもの服装を着替え、ふだん手放せなかったカバンを変えることができる。本を通して「たくさんの私」を発見し、自分の中の他者をもっとおもしろがってほしい。


<プロフィール>

松岡正剛
編集工学研究所所長
角川武蔵野ミュージアム館長

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